山本　香耶はメンタルが弱いんですね…。シカゴの時も、クラブで音楽を流すレイブみたいなイベントにみんなで遊びに行ったんです。その時に香耶が扉を開けた瞬間「あ、無理……」と言ってひとり帰ってしまったんですよ。お前弱いなって言うと「ああいうの駄目なんです……」と。弱い子ですね！　すごく気遣いをする子で、心が折れたりはしないんですよ。でも壁を作ってるんですね。心の中のもやもやは似ているのかもしれませんが、夏夜の肝ったまの据わったところとは対称的だと思います。香耶は守ってあげたいタイプですから。

──奥野さんの演技についてはどういう印象でしょうか。

山本　彼女はメンバーの中で唯一声を変えて夏夜を演じてるんです。本人はかなり高いかわいらしい声なんですが、そこから（声を）落として落として演じているんです。だから、自分とは違う人格のキャラクターを演じている面が一番強いのが香耶だと思います。お姉さんであり最年長なのは間違いないですが、彼女の本性とはかなりかけ離れていると思いますね。

──オーディションの時の奥野さんについて教えて下さい。

山本　実はオーディションの時の彼女は、未夕組にいたんです。でも未夕組では未夕らしさで突出していた美祐に決まりだとなった時に、どうしても香耶が惜しかったんです。彼女自身はああいう声質ではあったんですが、年齢的に当時22歳ということで、年長キャラの夏夜組に入れてみたんです。夏夜組はああいうキャラクターに合わせて選んでいたので、結構アダルトなキツめの子が多かったんですね。夏夜みたいなキャラに、演じる側もそういうキツい子を当てるのはアニメとして、アイドルとしてどうなんだろうと感じたので、敢えて本人はふわっとしている香耶を持ってきてみた。実際に演じさせてみると、その「自分を作っている」という部分も含めて夏夜にフィットしていたので、採用しました。

──奥野さん自身は、自分が年上として引っ張らなきゃ、と思っていた時期もあるようですね。

山本　そうですね、でも僕は早い段階で、彼女はリーダー的ポジションというのは無理だろうと判断しました。リーダーっていろいろなタイプがあって、WUGはいじられる佳乃みたいなタイプが合ってると思ったんです。香耶がもしリーダーになったら、重責を背負い込んで右へ左へふらふら揺れていたと思います。でも最年長ではあるので、お姉さん的存在として、何をしろって立場ではないんですがサブリーダーをやってもらうことにしました。見守っていてね、ぐらいのポジションが彼女にとっても楽にやれるのかな、と。

──メンバーが奥野さんに悩みごとを相談したりという話も聞くので、それは正解だったかもしれませんね。

山本　そこがまさに虚実混交なところで、たぶんメンバーも無意識の内に、アニメのキャラクターの関係性をなぞっている部分があるんじゃないかと思うんです。アニメを見て相談に行くのなら夏夜であり香耶なんじゃないか、みたいなね。このあたり危うさを感じなくもないんですが。もちろん全く参考にしていない子もいて、よっぴーなんかはただの愛すべきバカでキャラを食ってしまってますからね(笑)。

──奥野さんは、ステージなどでは一歩引いてにこにこ笑っているイメージですが、本当は前に行きたいんだと思いますか？　それとも前に出たいと思わないタイプだと思いますか。

山本　どっちなんだろうな。香耶は読めないんですよね。きっとそこがアンビバレントな子だと思うんです。すごく前に行きたいという衝動と、前に行ったら怖いという恐怖心が秒単位で入れ替わるような。そういう想いがないまぜになっているんだと思います。香耶はちょっとサイコな子なんですよ（笑）。

──サイコというと穏やかではないです。

山本　彼女は壁と結婚したいという子なんですよ？壁が好きで、ずっと壁と一緒にいたいって言ってるんです。サイコでしょ（笑）？

──奥野さんの今後の課題と、どういう方向に成長していくべきかを聞かせてください。

山本　これは多くのベテランの声優さんから聞いた話でもありますが、とにかく声優って生きのびるためにはかわいがられるしかないんですよ。もちろん芸を磨くことは大事なんですが。これは使う側から見てもそうで、とにかく声優って狭き門なので、とにかくみんな上手いんですよ。技術のある人たちが大勢使ってくださいと来るんですね。だから愛想であるとか、愛嬌であるとか、ぐいぐいと売り込んでいけるかとか、そういう対人関係の能力が必ず問われるんです。そこで行くか行かないかで迷っていては駄目だと思います。そこは自分に嘘をついてでもわーっといかないと、なかなか起用してもらうことは難しいと思います。香耶は役者としての力は十分にあるので。あとは、もう少しは声を張らないとだめですね。声が小さいんです。全てにつながってくるのは、香耶には自信が必要ということだと思いますね。