Wake Up,Girls!

山本寛監督 vs「Wake Up, Girls!」 特別インタビュー企画

06 菊間夏夜役「奥野香耶」編

 2014年3月にTVアニメ放送を無事終え、この夏にはツアーや「Animelo Summer Live 2014 -ONENESS-」出演など、さらなる飛躍を期待される『Wake Up, Girls!』。

 キャラクターたちを演じ、ステージに立つ7人は、一体どんな少女たちなのか。『Wake Up, Girls!』監督であり、7人を見出した山本寛監督にインタビューを行ない、その内容を踏まえた個別インタビューをメンバーそれぞれに行なうことで、作品と彼女たちの魅力に迫って行く。

 全七回の第六回は、WUG最年長の演技派で、メンバーの相談に乗ったりもするお姉さん、
普段はにこにこしながら一歩引いているイメージがある奥野香耶に話を聞いた。(聞き手・構成・撮影:中里キリ)。

山本寛監督に聞く『Wake Up, Girls!』「奥野香耶」編 菊間夏夜役「奥野香耶」編個別インタビュー

山本寛監督から見た 『Wake Up, Girls!』

──『Wake Up, Girls!』には癖のある大人たちがたくさん登場しますが、監督は個人として見た場合、誰の視点に一番近いですか?

山本寛監督 一番近いのは丹下社長です。これは最初から決めていて、丹下という存在を設定したのは自分に近い視点が作品の中にほしかったからです。弱小会社の社長だし、経営はうまくできてないし、スタッフには逃げられるし、口が悪いし、残ったスタッフの扱いも人を人とも思っていないし。とにかく破天荒で常識知らず、でもよくわからないところで人情的。自分ですね。

──被災地で丹下社長に語らせている想いもそのまま山本監督のものなんですね。

山本 そうですね、そういう部分は強いと思います。それから松田は、自分のところで使っている頼りない連中の象徴です(笑)。愚痴ばかりでロクに働かないOrdetスタッフが松田なんです。有能なすごいやつらが成功するのはある意味当たり前じゃないですか。そうじゃなくて、等身大の僕らがあちこちに参加していって、みんなで成長していく物語にしたいんです。だから松田が覚醒してスーパー松田になるような話にはしたくなくて、松田の功績は真夢を連れてきたことだけ、というようにしました。松田が無能なのは、僕らが無能であるということでもあります。でも、そういうもんで、それはそれでいいじゃないかと。その中でどう発展して、どんな未来が見えてくるかを地に足をつけて見ていきたいんです。そういう現実とオーバーラップさせる感じは大事にしています。

──現実のWUGの活動をライブハウスでのショーケースイベントから始めたのも、作品と出演者を重ねるためでしょうか。

山本 本当はストリートライブでも良かったんですよ。ストリートライブできない? って言ってみたんだけど、やっぱり駄目でしたね(笑)。その代わりにショーケースをやってみたら初回で満員になってしまった、なってしまったというのはあれだけど、僕はショーケースに5人しかお客さんが来なくてしめしめという感じにしたかった。まぁでもそうはならなかった訳で、だからもしあの時点でストリートライブをやったとしても大勢の人だかりができるだけだろうから、スタートラインに関してはもうそこに設定するしかないと思いました。シカゴのAnime Centralでもメンバーよりお客さんが少なかったらどうする? なんて言ってたら、結局1000人以上入ったんじゃないかな。それだけ自信にもなったと思うけど、調子に乗らないといいなと思います。

──この夏は、アニメでWUGが挑戦したアイドルの祭典の舞台、I-1アリーナのモデルになったさいたまスーパーアリーナで行われるアニサマに、リアルWUGが参戦します。

山本 ここらでそろそろ一回空振りしたっていいと思ってるんですよ。あれ、盛り上がらないぞ?って(笑)。僕らの最終的な目標としてはアニメの最終話の再現がしたくて、さいたまスーパーアリーナ全体がWUGのイメージカラーの緑に染まっていったら最高だと思います。でもそこまでうまく行くとは思っていないんです。現時点で27000人のお客さんが『Wake Up, Girls!』とWUGの七人を知っているわけがないので、全部緑にはならないと思いますね。現時点での自分たちではまだ足りないんだということを痛感してくれたらそれでいいと思っています。

──短期的には失敗しても、長期的に見てユニットの成長につながればいい?

山本 失敗はしなきゃ駄目ですよ。自分たちはまだまだだというハングリー精神が必要なんです。アイドルについて話した時にも言いましたが、頂点に行ってしまった物語って、あとは落ちていくだけなんですね。だからどこかで挫折したり失敗する経験は必要で、今いる場所で満足しては絶対に駄目なんです。自分の先に伸びしろがあることを痛感する瞬間が必要なんです。逆にWUGのアニサマ出演が大成功すると、今後コンテンツとしてのWUGはどう描けばいいのかと頭を抱えるところではあります(笑)。

──いいパフォーマンスで新しいファンを掴むチャンスでもありますし、難しいですね。

山本 別になんでもかんでも失敗してほしいわけではないんです。大事なのは今に甘んじないことなので。シカゴに行った時に、ちょっとメンバーがゆるーいだるーい空気になったんですね。本番前にハンカチ落としとかやってましたから。そうしたら本番で音響にトラブルがあって、後でお前らのゆるんだ空気が伝わったんだって言ったんですが、アメリカのイベントのゆるい空気感が本人たちに影響した部分もあったんだと思います。これはいけないなと思って、たるんでるからそういうのは伝わるんだよ! とかなりキツく言いました。でも僕もハンカチ落としには参加してたんですけどね(笑)。

──夏夜はWUGに出会うまでは特に夢があるわけでない閉塞感があって、震災で色々と失ったことが描かれます。アイドルってそういう欠けた何かをステージに求める部分があるように思うのですが、どう思われますか?

山本 難しいですね、欠けてるものとアイドル。アイドルってファンから夢を委託される存在で、ゴルゴダの丘におけるキリストのような存在だと僕は思っているんです。夢を叶えられなかった見る側が、自分たちの夢をアイドルに託す。そういう人の夢を背負っているんだから、それは重いし苦労もすると思うんです。それがファンとアイドルの関係だと思います。欠損に関しては、エンターテイメント業界に関わる人間ってそもそも何か欠損していることが多いと思うんですよ。僕も含めてどこかおかしいんです、だから表現する、失ったものを埋め合わせするのが表現だと思うんです。

──真夢の親子関係なんかも、まさにその“夢の委託”の関係ですよね。

山本 あれはかなり露骨にそれを表現しましたね。アイドルって、絶えず何かを奪われている存在なんです。自分のプライベートであったり、自由だったり。それを埋め合わせるためにステージの光を求めるんです。

山本寛監督から見た『奥野香耶』
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