山本　七海に関しては本当にノーマークだったんですよ。ツンデレを用意したいと思って、僕はキツめの女の子を探していたんですが、山下七海という女の子は本当にぽけーっとしてるんですよ。地味で、どちらかといえば実波っぽい天真爛漫さがあって。顔の造形からすると釣り目なので、彼女なのかなぁ…？と。

──オーディションの時の印象を教えてください。

山本　最近二次オーディションの時の映像があったので見たんですが…やっぱり地味ですね(笑)。徳島出身なこともあって、イモくさい子、普通の子だなぁと思いました。それが最終選考になぜか残っていて、僕は残した記憶はないんです。僕はポニーテールだったなぁ…ぐらいしか覚えていないので、本人にはポニーテールにしてるのが似てたんだよ、なんて言ってるんですが（笑）。実際には神前暁と脚本の待田さんが強く推していたようです。

──その後の山下さんの印象の変化を教えてください。

山本　こう言ってはなんですが、垢抜けましたね！　こないだシカゴに行ったんですが、隣に座って「監督ー、それまじっスかー？」みたいな感じで、昔のオドオドした感じはありませんね。いろんな意味でノリに乗ってるなと思います。でも根はすごく素直で天真爛漫で、あまりがっつかないタイプですね。野心はあまり表に出さず、悪く言えば流されやすい。最近ようやく自分を出すようになってきたのが成長だと思います。

──ファンの前に出てきた時にはかなりの美少女だったので、あまりいもっぽいというイメージはありませんでした。

山本　地味だったんですよ。早坂がゴツゴツのお芋ちゃんが一流の料理に、みたいなことを言ってましたが、これがアイドルの醍醐味ですね。レッスンの最初は本当にただの田舎の娘だったので、どうしたものかと思いましたよ。何かしらの演技の経験はある子が多い中、ほぼ完全に素人でしたからね。最初はツンデレって言葉も知らなかったみたいなんです。

──メンバーの中ではオタク文化からは一番遠かったイメージです。

山本　吹奏楽部でずっとフルートをやってたんだったかな。ＡＡＡ（パフォーマンスグループ）にすごく憧れていて、本人は歌手になりたかったみたいなんですね。それがＷＵＧという道を選んだというのは、意図はしてなかったんですが光塚に憧れながらアイドルの道を選んだ菜々美に近かったですね。やっぱり（役が役者を）呼んだのかもしれなくて、アイドルを一里塚にしようとする菜々美というキャラクターが七海を呼んだんでしょう。今思えば大当たりの選択でした 。

──先日シカゴのアニメセントラルに招かれましたが、その時の山下さんはどうでしたか？

山本　あの七海が締めの挨拶で突然「プリーズコールミーななみーん！　３，２，１，ななみーん！」とかやり始めて、なんだなんだと思いました。テンション上がっちゃったんでしょうね。サイン会なんかでもガンガンしゃべっていて、日本から来たワグナーさんはもちろん、現地の人ともつたない英語でうわーっとしゃべるんです。これはすごいなと思いました。

──山下さんの技術的な変化や成長はどうですか？

山本　レッスンでメキメキ伸びて、輝きを増していきましたね。最初にスチール撮影があった時、メイクをして制服を着せたら、ちょっとときめいたんですね。「馬子にも衣装」じゃないですが、あの時のななみんが一番かわいかったな（笑）。上目遣いで「監督これで大丈夫ですか？」って迷った子犬のように言ってました。でもその後撮影に立ち会うと、こんな表情も見せるんだ、ということがたくさんあって、覚醒した部分があるんじゃないかと思います。表に出て活動するようになってからの七海は本当に安定していて、あまり彼女を叱り飛ばした記憶はないんですよ。うまくなったし、自信がついた。根が素直な真っ直ぐな子なんです。

──その安定感は菜々美にも通じますが、アニメの物語的に言うと「安定したできる子」って損な部分もありますよね。

山本　ありますね。その分割を食って菜々美のキャラ人気につながっていない部分もあるので、何らかの機会でテコ入れをしたい気持ちはあります。本人にも「もっと出番くださいよー！」と言われました（笑）。描写量で菜々美が割を食ったのは申し訳ない気持ちはあるんですが、最初に七人を平等に描くことにはこだわらないと決めていたんです。やはり物語が優先なので、物語の進行に従ってキャラクターを配置していくのは大前提でした。幸い七海本人の人気は高いんでね、今はそれで許してよって感じですね。本人が歌をやりたいようなので、根っこが声優であることを忘れずにバランスをとっていけば、彼女は大丈夫だと思います。